【海外失業サポート事情】失業してもオーストラリア人が安心していられる理由とは?

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前回の記事(解雇されにくい日本の正社員と即日解雇のオーストラリアどっちがいい?)では日本では正社員は法律に守られているため解雇されにくく、逆にオーストラリアではそうした法律が無いため会社側の都合で即日解雇も可能だという話を書きました。

また日本においてはどうしても会社が人員を減らしたい場合はこのような法律を回避するためにパワハラなどの様々な手段を使って社員のほうから辞めるように仕向け、時にはそれによってうつ病になる人が出てくるなどの悲劇が起こるため、解雇し易いようにしたほうが良いのではないかということも指摘しました。

これに対して、「解雇されたとしても新しい仕事がすぐに見つかるのならばいいが、現在の日本はそうではないので労働者側にとっては辛い環境にある」というコメントをいただきました。

確かに次の職を探すのが大変だという問題はあると思います。

かと言ってパワハラなどの嫌がらせを受けながらも会社にしがみついて会社に病気にされては元も子もありません。
そういう環境で働いていても全く平気な人はあまりいないでしょう。

結局、現在の日本の場合は規制が緩和されて解雇しやすいようになろうと、現状のままだろうと労働者にとっては厳しい環境であることには変わりありません。

私ならばうつ病にされるよりは辞めて新しい道を探すほうを選びますが、それは人それぞれの状況や意思によるのでどちらが正しいとは言えませんね。

ところで、ちょうど良いタイミングで「追い出し部屋」などの規制をする方向で国が動いているというニュースがありました。

業務命令で自分の職探し「不適切」 厚労省が初通達へ:朝日新聞デジタル

自分の再就職先を探して――。そんな業務命令を会社がするのは「不適切だ」とする初の通達を、厚生労働省が近く全国の労働局に出す。退職勧奨を断っても社内外で転職先を探させて退職を迫る手法は「追い出し部屋」として問題視されたが、国がはっきり不適切と認めることで歯止めがかかりそうだ。

しかしこのような規制をしたところで全く根本的な解決になっていませんし、会社が「人員削減をしたい」という方向性が変わるわけではないのでまた新たな手法が出てくるだけのことでしょう。

このような場当たり的な対処方法ではただのイタチごっこになるだけです。

しかも今後このような規制の強化でますます解雇し辛くなるので、企業はさらに正社員の採用を控えて非正規社員を増やそうとするでしょう。

オーストラリアでは仕事が見つけやすいのか?

それでは「即日解雇」が可能なオーストラリアで解雇になった場合、すぐに次の仕事が見つかるのでしょうか?

日本のように「会社が正社員を解雇しにくい法律」が無いのは、すぐに仕事が見つかる人が多いからのでしょうか?

現在のオーストラリアの景気は比較的悪くないとは言え、残念ながら仕事探しは結構大変です。
(もちろん人によってはすぐに見つかる人もいますが。それは運次第です)

私がオーストラリアの会社で即日解雇を食らったことがあるという話は前回の記事でも書きました。

実は私はその後10ヵ月もの期間、無職で仕事探しをする羽目になりました。

ちなみに全部で97社に応募しました。
そしてその期間に受けた電話面接と直接面接は合わせて40社弱になると思います。

この期間は不安と、「早く仕事を見つけたい」というプレッシャーでオーストラリアの大学に行っていた頃に匹敵するほどのストレスがありました。

そんな大変な時期に大きな支えになったのが国からのサポートでした。

私は今でもその時の国の支援にとても感謝しています。

オーストラリアの失業者支援

以下がオーストラリア政府が失業者に生活のサポートとして払ってくれる金額です。
(数字は2016年のものです)

独身で子供なしの場合: 2週間で最大523ドル
独身で一人以上の子供がいる場合: 2週間で最大566ドル
結婚している場合(パートナーも含む): 2週間で一人当たり最大472ドル

円/豪ドルの為替レートはかなり変動が大きいので一概には言えませんが、現地での物価水準を考えると個人的には1ドル90円程度で計算すると良い感じがします。

ここで1ドルが90円だとして計算すると、例えば独身で子供がいない場合は一か月で約10万4千円程度もらえることになります。
それから、子供がいる場合は金額が少ししか多くなっていませんが、実はこの他にこの支援とは関係なく子供がいる家庭に支給されるお金があるので合計すると結構なものになります。

ただ、これだけだと生活をしていくには少し厳しい金額です。

しかしこの他にも収入がある一定以下(失業者ももちろん含まれます)の低所得の人に対して「低所得者カード」が発給され、そのカードを持っていれば公共交通機関、医療費、処方箋薬、光熱費などの大幅な割引が受けられるようになっています。

また賃貸に住んでいる場合はこの他に住宅手当も支給されます。

これらの割引も加味するとあまり貯金がない場合でも(やはりある程度の節約生活になるものの)なんとか生きていけるレベルになると思います。

ちなみに、これらのサポートを受けるにはまずその時点の収入と手持ちの資産を全て申告しないとなりません。
そしてその申告を元にどれだけの金額が支給されるか決定されます。

バイトである程度稼いでいたり、多くの資産を持っていて投資収入がある場合にはそれに応じて支給額が低くなっていきます。

ただし、「資産」と言っても不動産の場合は投資物件を持っている場合にはカウントされますが、自分が住んでいる持ち家の場合はその家は資産としてカウントされませんので結構寛容です。

また私は失業期間中に学校に暫く通ったのですが、学校の費用はほとんど政府がサポートしてくれました。
はっきりとは覚えていないのですが、一学期(4か月分)で70ドルくらいしか払わずに済んだような記憶があります。

これは今までとは違う分野の新しい職種で新たに出発したいという人にとってはとてもありがたい支援だと思います。

私の以前の記事(レールから外れることを怖れる日本人と、何度でもやり直すオーストラリア人)で書きましたが、オーストラリアは新たな人生のスタートを切るために「おじさん、おばさんの年齢になってから学校に行くのも全然アリ」で、そのことに対して他人からおかしな批判などをされることもないとても寛容な社会なので、このような学費のサポートの制度は積極的に使われていると思います。

サポートを受けている人の義務

これはどこの国でも同じだと思いますが、「何もしないで簡単に国から税金をもらって生活ができる」などという都合のいい話はありません。

この失業者支援を受けている人にはいくつかの義務が課せられています。

まず、学校に行かず就活を継続する人は2週間に一回の割合でセンターリンクと呼ばれる役所に出向いて応募した企業の名前や連絡先などを申告する義務があります。

これを一回でも怠ると正当な理由を事前に通告していない限り支給がストップしてしまいます。

「きちんと就活をしてできるだけ早く仕事を見つけてくださいね」ということです。
まあ当然のことですね。

また役所が指定した人材紹介会社にも定期的に行かないとなりません。

ここでは担当者が一人一人に付き、自分の今までの職歴やスキルを踏まえて今後やりたいことなどの方向性について話し合います。

担当者はそれに沿って会社の紹介をしたり、もし学位や知識をさらに付ける必要があると判断した場合は学校の紹介や入学手続き、さらには学校の割引の手続きなどまで行ってくれます。

担当者は担当しているそれぞれの人の面倒を最後まできちんと見てくれます。

もし途中で自分が引っ越しをした場合は引っ越し先に一番近い人材紹介会社を紹介され、新しい担当者に今までの全ての履歴が引き継がれるようになっています。

担当者は前述の役所(センターリンク)にその人がきちんと決められたスケジュールに従って来ているかや、進捗なども報告します。

これも生活費のサポートの支払いがなされる一つの条件になっているので、もし無断で担当者との面談をすっぽかしたりすると支給がストップします。

手厚い生活支援の負の面

さて、求職者にとってはいいことずくめのようですが、このような手厚いサポートをするということは良いことばかりではありません。

最初にも書いた通り、支給される金額はそれだけでは生活するには少し不足ですが、各種の割引制度を活用して贅沢をせずに生活をすればなんとか仕事をしなくても生きていけるレベルになります。

そのため制度に甘え、働く意思も無くなり自堕落な生活になってしまう人もたくさんいます。

働いて税金を払っている人達からしたらそういう怠け者達の面倒を見るのは面白い話ではありませんから、このような支援制度に対して批判がなされることは度々あります。

噂でこんな人がいるというのを聞いたことがあります。

その人は一応は就活をしているものの、面接まで進んでしまうと給与やその他の条件面などで無理難題を要求してわざと不採用になるようにするらしいです。

そして役所のほうには「きちんと就活してます」と応募企業のリストを提出するのです。

あくまでも人から聞いた話ですので本当か嘘かは分かりませんが。
ただ、そういう人が本当にいたとしても驚きはしません。

そういう問題を解決するために最近では1年以上経っても仕事が見つからず学校にも行っていない人は毎週決められた時間ボランディア活動をしないとならないなどのルールが追加されたようです。

つまり、さっさと仕事を探して働きなさいというプレッシャーをさらにかけることにしたわけです。

このように素晴らしい制度があってもそれを悪用する人間が出てくるのは世の常なので、何でもかんでも手厚くサポートをすればよいというものでもないのは問題でしょう。

国の適切な支援がもたらすメリット

上記のようなマイナスの面もありますが、真面目に就活をして一日でも早く仕事に就きたいと思っている人にとっては生活の心配をそれほどせずに済み、その分就活に専念できるこのような制度はとてもありがたいシステムです。

もしこのようなサポートが無く生活にも困るような状況だったとしたら、とにかくバイトでもなんでもして生きていかないとならなくなりますし、その場合は自分のスキルなどとは全然関係のない仕事をせざるを得なくなるかもしれません。

そしてバイトなどをしてしまうと就活をする時間も限られてしまい、そのまま一生低収入になってしまうかもしれません。

そういうわけで、きちんと自分の希望する職業に就けるまでじっくり就活できるようにサポートをしてくれることは求職者にとって非常に助けになるものだと思います。

そうすることによって収入がより高い仕事につける可能性も高くなりますし、そういう人は税金をたくさん払うようになるでしょうから政府にとっても結果的に良い循環になるはずです。

私は日本では実際に国からの支援を受けながら就活をしたことが無いので今回は日本との比較はしませんでしたが、みなさんはオーストラリアのこのような失業者支援制度をどう思いますか?

次の仕事を見つけるのが楽ではないオーストラリアにおいて「会社が社員を解雇しにくい」法律が無いのは、このようなしっかりした国の失業者支援があるのも一つの要因ではないでしょうか。

少なくとも失業したからといって生活苦から自殺などをしなければならない社会ではないことは確かですし、日本と比べたらより「安心して失業できる」社会なのではないかと思います。

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かわずん
アンチ・ブラック企業ブロガー