「同僚や上司に迷惑がかかる」
「周りが誰も取っていない」
「言い出しづらい雰囲気」
などなど日本で有給休暇を取りにくくさせている理由はたくさんあります。
「日本人の有給の消化率がなぜ低いのか」という記事があったので今回はこの記事を元に「なぜ有給消化率が低いのか」とその解決方法について書いていきたいと思います。
まずは記事の紹介から。
日本人の「有給休暇の消化率」が極めて低い理由:日経ビジネスオンライン
有給取得に「罪悪感」を感じてしまう日本人
この疑問への回答になると思われる興味深い内容を、「Expedia有給休暇・国際比較調査」(2015年データ)は含んでいた。
1つは、「有給休暇取得に罪悪感を感じる人の割合」である。日本は18%という、突出して高い数字になっている。本来は権利の行使であるはずの有給休暇を取る際に「すみません」と言ってしまう感覚だ。
そして、そう感じる理由の第1位は「人手不足」。ぎりぎりの人繰りで仕事が回っている場合、休暇取得中に同僚や部下の仕事が増えてしまうことに、心理的な抵抗感があるということなのだろう。
これはまさにその通りです。
私の以前の記事「部下よりも先に帰るのが理想の上司な理由とは?」では退社前の「すみません」は禁止にするべきだと指摘しましたが、有給取得に関しても「すみません」は禁止にするべきでしょう。
日本人はとにかくなんでもかんでも「すみません、すみません」と言い過ぎです。
日本の文化特有の「謙虚さ」から来ているのでしょうがそれにしても限度というものがありますし、このような習慣のために本来は「権利」であるはずの有給が取りにくくなるなど本末転倒です。
上記の私の記事でも触れましたが、オーストラリアでは謝りながら退社する人など誰もいません。
また、謝りながら有給を取る人もいません。
みんな堂々と申請して堂々とホリデーを楽しみ、そしてまた会社に戻ってきます。
人間、いつも働き詰めで疲れていてはいい仕事など出来るはずがありません。
有給は社員が日頃の仕事の疲れを取り、リフレッシュして会社に戻ってきてまたいい仕事をするためにあるものです。
言うまでもないことですが、適度な休息を取って心身の健康を維持することは働く人間にとってとても大切なことです。
そして社員が不健康では良い仕事ができるはずがありませんから、休暇を与えることは会社のためにもなるのです。
これを分かっていない(?)日本のブラック企業は社員を酷使して働かせた分だけ利益を生むと考えています。
だから「ストレス耐性が強いか」などと言い出すわけです。
どんなに頑丈な人間だろうとストレス耐性が強かろうと一定時間ごとに休息が必要なのは人間誰でも同じです。
もっとも、ブラック企業にとっては多くの場合社員は使い捨てなので「リフレッシュして戻ってきてまたいい仕事をして欲しい」などとは考えていないのでしょうが。
酷使するだけ酷使して壊れたら新しい奴隷を探せばいいだけならばわざわざ有給など与える必要は全くありませんから。
有給の消化率を上げる最も効果的な手段
有給の消化率を上げる一つの有効な手段は、会社に対して余った有給の買い取りを義務化するように法律を作ることです。
そしてそれを厳格に適用させるようにするために違反企業には重い刑罰を与えるようにするべきです。
日本では会社が社員に有給を使わせないほうが得なシステムになってしまっているのが現状です。
「年間有給休暇日数XX日」などと言っておきながらそれらをほとんど使わせないという会社はゴロゴロあります。
そしてこのような休暇に関する「社員と会社の契約」を反故にしても法律的な罰則もありません。
そのため会社は有給を残して辞めた社員に対して責任など全く感じませんし、全くの「逃げ得」の状態になっています。
よく言われているように、日本では遅刻などの「会社の権利」に対しては大げさなほどうるさいくせに「社員の権利」はないがしろにしている会社ばかりです。
またこのような契約を守らなくても罰せられない曖昧さが「会社が有給を与えてあげている」という勘違いを生み出しているのです。
このようなことを防ぎ有給消化率を上げるためには有給の買い取りの義務化と違反企業への罰則が必須なのです。
オーストラリアの現状
オーストラリアの会社では有給の買い取りは法律で決まっていて、会社の義務となっています。
社員が辞めるときには必ず余った有給を買い取らないとならないので、これは会社にとっては「負債」となります。
だから会社としてはなんとかこの負債を減らそうとするわけです。
例えばたくさん有給が貯まっている社員に対しては上司から「有給を取りなさい」という指示が出ます。
私のいるオフィスには時々「有給を積極的に使って健康で楽しい人生を送りましょう」といったようなポスターが張られることもあります。
先の日経ビジネス~の記事で指摘されているとおり、日本の会社の多くは人件費を抑えるためにギリギリの人数で仕事を回しています。
そのために有給を取ろうとしたときに「他の人の迷惑になる」から「すみません」と頭を下げて上司や同僚に罪悪感を感じながら取らないとならなくなるわけです。
しかしこれは余裕のある人員を配置しない会社が全ての責任を持つべきであり、社員には一切責任はありません。
本来、社員が有給を取る際にこのように肩身の狭い思いをする必要など無いはずです。
ましてや社員に休みも取らずに働いてもらおうという前提で運営している会社など正に「甘え」以外の何物でもありません。
社員が休みを取ろうとすると「甘え」と言う会社は実は会社のほうが社員に甘えているのです。
「社会人は厳しいもの」などと会社に都合の良い理屈を言い社員に過酷な労働を強いている会社は逆に「経営は厳しいもの」ということを学んだほうが良いでしょう。
労働者から搾取することでしか経営が成り立たないような会社は存在するべきではありません。
有給は病気でどうしても働けないときのため?
また上で紹介した日経ビジネス~の記事では病休についても指摘しています。
このほか、日本の会社では疾病休暇(病気休暇)を取得しにくいので(日数が多いと無給になるのが通常)、自分が病気になった時のために有給休暇をある程度残しておくという動機付けがあるのだろうという指摘がある。実際、筆者の友人の1人はまさにこのパターン通りの行動をとっており、疾病休暇についてはその存在さえ知らなかった。
日本では「病休?なにそれ?」「有給のことではないの?」という感じだと思います。
オーストラリアの会社では病休があるのはごく当たり前のことです。
それぞれの国の実情は知りませんが、他の多くの欧米諸国でも同じように病休が取れる国が多いのではないかと思います。
ちなみに私の会社では年間20日間の有給休暇とは別にさらに20日間の病休があります。
この病休は自分が病気だったり医者の予約があるときはもちろん、家族が病気などの時でも使うことができます。
日本ではよく、「有給は病気でどうしても働けない時に『頭を下げて取らせていただくもの』」などと言う馬鹿なことを言う人間がいますが、社畜思想が染み付いた全く見当違いの考えなのです。
休暇中の連絡先まで教えなければならない理不尽
また日経ビジネス~の記事では休暇中の予定の提出についても触れられています。
「また休暇の時の連絡先を上司に伝える必要はないし、平社員には、休暇の間に仕事のメールを読む義務もない。休暇の間は完全に『行方不明、音信不通』に なることが許される。それは、『週末や休暇中に会社のメールを読んでいると、気分転換ができない』と考える人が多いからだ」
これは正にオーストラリアでも同じです。
私は日本で働いていた時は夏休みに入る前に「緊急の用事があったら困るから」という理由で一日ごとに居場所と電話番号などの連絡手段を全員書かされました。
またそうすることが「給料をもらっている社会人として」当然のことだと信じて疑いませんでした。
日本人はほとんどがこのような考えに洗脳されています。
そしてここにも日本の企業の「甘え体質」が隠れています。
上でも述べたように日本では「給料をもらっているのだから~」「社会人としての責任があるのだから~」などともっともらしい理由でこのようなことが当然のように行われていますが、そもそも会社が日頃から誰かがいなくてもきちんと余裕のある人員で仕事を回していないからこのようなことが必要になるのです。
全ては会社の甘え体質が社員にしわ寄せとなって来ているのです。
人間は休息が必ず必要
ドイツでは戦時中でさえも兵隊に対してきちんと休暇が定められていたようです。
「第9軍にあっては、ひと月あたり構成員の約10%に休暇を与えている。前線勤務にあたる兵士には、原則として、最初の1年には12か月あたり1度、2 年目には9か月に1度、3年目には6か月に1度の割で休暇が許可された。また、前線部隊の将兵は(連隊指揮所より前方で勤務するものと規定されている)休 暇を得るにあたり、後方要員よりも優先されることになっていた。驚くべきことに、第9軍に関していえば、激戦のさなかにあっても、こうした休暇規定は守られていたのである」
そして上記の記事でも触れられている通り、その頃の日本は兵士に対して「休暇どころか、補給さえも充分に与えなかった」のです。
日本のこのような姿勢は戦時中(恐らくそれよりはるか前)から現在に至るまで変わっていません。
人間は機械ではないのですから休みが必要なのは当然です。
機械でさえずっと動かそうとしたら定期的なメンテナンスのために暫く稼働できない期間ができます。
その時のために予備の機械を準備しておいたり、日頃からローテーションを組んで作業をさせるのは当たり前のことです。
別のある記事で知ったのですが、軍艦などの兵器は実際に保持している戦力の3分の1しか実戦に投入できないそうです。
別の3分の1はメンテナンスをしなければならず、残りの3分の1は訓練に回さないとならないらしいです。
そしてそれぞれを順番にローテーションして運用しているそうです。
軍隊と会社は同じではないでしょうが、少なくとも常にギリギリの人員で仕事を回している日本の会社がいかにおかしいかは理解できるでしょう。
中途半端な対処では日本は絶対に変わらない
さて、最後に日経ビジネス~の記事では以下のように締めくくっています。
このように見てくると、「働き方改革」のうちで有給休暇の積極的取得という問題は、日本の場合、トップダウンで進展するような容易な話ではないことが痛感される。
残念な結論だが、結局、一人ひとりが自らの意識改革を行いながら、無理ない範囲で、できるだけのことをやっていくしかないのだろう。
私はこの最後の部分については賛成できません。
これは断言してもいいですが、「一人一人が意識改革を行って~」などと言っていたら「給料を出している会社のほうが社員より偉い」というのが暗黙の了解である日本の社会においては満足に有給が取れるようになる日など永遠に来ないでしょう。
冒頭にも述べたとおり、未消化の有給の買い取りの義務化をして会社に強制をすることこそが最も効果的な解決方法なのです。