またまたトンでもないことを書いている記事を発見してしまいました。
どうしてブラックよりゾンビが怖いのか?:日経ビジネスオンライン
この筆者は以前の私のブログの記事(「24時間戦えるか?」-もちろんしません。そのつもりで働く気もありません。)の中で紹介したのと同じ人です。
それにしても、社員を酷使する会社に対する批判の声が大きくなってきているこの時代に、このようないかにも批判されそうな記事をわざわざ何度も書くのはどういった魂胆なのでしょうか?
もしかしたら注目を集めるための作戦かもしれませんね。
近頃流行りの「炎上商法」とか?
Facebookのシェア数も結構な数になっているので記事を読んでいる人は結構多いでしょう。
作戦だとしたらこうやって記事を宣伝している私もいいお客さんですね。
会社と社員どっちが重要?
記事は経営を立て直すために銀行から派遣された社長と専務との会話形式になっています。
話しを簡単に説明すると、「社員の残業が多くなってきているから程々にしたほうが良い」と言う専務と、「今は会社の存続に関わる事態なのだから皆暫く我慢してさらに残業を増やしてくれ」「非常時なのだから直接関係の無い部署の人間も協力するように」という意見の社長が対立しているというものです。
例によって、強引な理屈を述べて押し切る社長の意見が正しいという結論で締めくくられているわけですが、中でも強烈だったのが以下の社長の発言です。
「時代など知ったことではない。沈没しそうな船に乗っていることが君にはまだわからんのか?
傾いている船の中で船員に『仕事はほどほどに』『役割分担は守って』とか言うのか?」
「会社が潰れたら大変なことになるのだから、みんなで力を合わせないと」ということを言われると納得してしまう人もいるかもしれません。
いやいやそんなことはないでしょう。
こんな屁理屈に騙されてはいけません。
船と会社は同じではありません。
船が沈んだら乗客は死ぬ可能性があるので必死になりますが、会社が潰れても社員は死にません。
逆に、会社を支えているのは社員です。
社員がいなくなったら会社は回らなくなります。
つまり、働いてくれる社員がいなくなったら会社は潰れるのです。
そんな大事な役割を持っている社員を大事にせず酷使する会社は絶対に長続きしません。
多くの人にとって会社は命をかけてまで守るべきものではない
基本的に多くの労働者にとって会社などただの生活費を稼ぐための手段でしかありません。
「今働いている会社と命を共にする」などと考えている人はまずいないでしょう。
「いや、お金だけじゃない。仕事は楽しいし、『夢』や『やりがい』も働く理由だ」と言う人はいるかもしれませんが、もし宝くじが当たってもう一生働かなくても優雅に暮らせるだけのお金が手に入ったとしたら、そう言っている人のうちどれだけが働き続けるでしょうか?
そのお金を元にして自分で事業を始める人はいるでしょう。
そういう人達にとっては「夢」や「やりがい」は働く理由になるでしょう。
しかし、そのまま雇われの身のままで会社に忠誠を誓って「夢」と「やりがい」を追い続ける人は恐らく稀でしょう。
だから殆どの人にとって会社は生きていくためのお金を稼ぐ手段であって、それ以上でも以下でもないのです。
もし今働いている会社が潰れたとしても他の会社に移って働き続けるだけのことです。
もちろん転職をするとなると簡単にはいかない人もいるでしょうが、少なくとも命までは取られません。
あえてここでこの筆者の例に例えるなら、沈みかけてる自分の船の周りにはたくさんの他の船がいるという状態です。
だからわざわざ命をかけて今乗っている船を修理する意味は大してないのです。
沈んだら周りにいる適当な船に乗り移ればいいだけです。
そしてもしこのとき余裕があるのなら二度と任意の残業という名の強制労働をさせられないように、より良識的な船長がいる快適そうな船に乗ると良いでしょう。
いずれにしても、乗員は沈む船に付き合う必要はありません。
無能な経営者(船長)が沈む船と運命を共にすると言うのなら敢えて止める必要はありませんが。
そもそも船は経営者(船長)の船であって社員との共同所有の船ではありません。
きっと記事の筆者はこの点を勘違いしているのでしょう。
「みんなの船」が沈みそうになっているのだから乗組員全員が犠牲の精神で尽くすべきだと考えているのではないかと思います。
全然違います。
船はあくまでも社長や経営者の持ち物であって、どこまで行っても社員の持ち物にはなりません。
だから自分の船が沈みかかったからといって社員に犠牲を強いるのは間違っているのです。
それにしてもこの社長、会社を立て直すために社員を超過労働させてもし社員が過労死でもしたらどうするつもりなのでしょうか?
労働者側からしたら、ただのお金を稼ぐ手段であったはずの会社に殺されては本末転倒です。
以前にも指摘しましたが、日本の企業はこういったリスクを軽視し過ぎです。
裁判でも起こされたら「言い逃れ」を考えたり証拠隠滅を図るのに大忙しになりますし、ましてや裁判で負けて過労死が認定されたりしたら会社の立て直しどころではなくなるのは明らかです。
経営者や役職者がいるのは何のため?
そもそも会社の経営状態が悪くなったのは全て経営陣の能力が不足していたからに他なりません。
すべての責任は経営陣にあります。
経営者や役職者はこういうときに責任を取るために普段から高い給料をもらっているのではないのですか?
経営失敗のツケを社員に残業させることで補おうとするなど恥さらしもいいところです。
それとも、業績が良い時はたんまり給料をもらい、業績が悪くなったら臆面もなく社員に尻拭いをさせるほど面の皮が厚いのでしょうか?
もし労働力が足りないのなら残業させるのではなく、もっと人員を増やして既存の社員の負担が増えるのを抑えるべきです。
長時間働けば働くほど社員は疲れ、ダラダラ働くようになって生産性が落ちるのは分かりきっていることです。
みんなが疲れきった状態でいい仕事が出来るはずがありません。
ましてや会社の立て直しなど夢物語です。
え?残業代は払ってないから今いる社員にさせるのが一番安い?
そうだとしたら違法なので問題外ですね。
そんな会社はさっさと潰れるべきです。
それとも、人員を増やすお金も残業代を支払う余裕もないから仕方がない?
そんな会社はいずれにしてももうダメです。
延命など不可能ですし、する価値もありません。
社員を含めた会社のリソースを適切に無理無く活用して会社を回していくのも経営者の仕事です。
それが経営が苦しくなったからと言ってただがむしゃらに全社員に長時間労働を強いるのならそれは経営者とは呼びません。
それは奴隷の監督者です。
奴隷だったら何人潰れようがいくらでも代えがききますし、ひたすら働かせて次々と新しい奴隷を入れて目標を達成すればいいのですから。
奴隷の監督者には大した能力は求められません。
求められるのはひたすら奴隷を抑えこんで強制的に労働させる力だけです。
そう言われるとここに出てくる社長が奴隷の監督者に見えてきませんか?
呆れるばかりの記事の筆者のまとめ
この記事の筆者はこんな言葉で締めくくっています。
建て直しのためには力技を優先
船が傾いてもいないのに船員をこき使うのがブラック企業だとしたら、船が傾いて沈没しかかっているのがゾンビ企業でしょう。
どちらも困った存在ですが、 あえてどちらが怖いかと聞いたらゾンビ企業です。
沈没しかかっているのであれば、あらゆる手段を使って建て直さなければなりません。明らかな法令違反は別として、社員が不満に思う程度であれば力技を優先すべきです。
正常運行できるように持ち直すのが先決です。
ここまで私の記事を読んでくれた人はこの言い分の非常識さが分かると思います。
ブラックだろうがゾンビだろうが社員にとってみたら酷使されるという意味ではどっちも同じです。
「あらゆる手段を使って建て直さなければなりません」って・・・それは経営者と仕事を任されたコンサルタントの理屈です。
そんな理由で人生の貴重な時間(果ては命まで)を取られる社員はたまったものではありません。
「力技」が必要なら経営陣だけで気の済むまでやってください。
ちなみに、今この記事を書いている時点での氏の記事に対する読者の反応は「とても参考になった」「まあ参考になった」がそれぞれ27%程度あります。
これを多いと見るべきか少ないと見るべきか分かりませんが、こんな話が参考になると考えるのはそれこそブラック企業の経営者様か社畜さんでしょうか?
それにしてもこの筆者の記事はいつも最初は「残業はあってはならない」と強調しつつ、なんだかんだ理由をつけて最後には「崇高な目標のため」に残業をさせることを肯定するというパターンになるようです。
この方は「経営コンサルタント」らしいですが、 このようなやり方を本当に実践しているのだとしたら経営が良くなるどころか耐え切れなくなった社員がどんどん辞めていきそうな気がします。
それか病気になる社員が増えて訴えられるか。
もしかしたら、これらの氏の記事は彼自身の仕事をする上での「言い訳」を広めるための物なのかもしれませんね。
いずれにしても、ブラック企業だかゾンビ企業だか知りませんが、「どちらが怖い」とか言う前にどちらもさっさと消えたほうが世の中のため人のためになるでしょう。
まとめ
- 会社の立て直しはあくまでも経営者の責任でどうぞ。最後まで責任を取るのが経営者のお仕事です。
- 社員に経営の失敗の尻拭いをさせてはいけません。
- 立て直しを口実にして残業をさせてはいけません。
- 労働力の不足は増員で賄いましょう。
- それで立て直せないのならその船は沈むべきなのです。社員に迷惑をかけずに沈めて下さい。