注文から2時間半以内(!)に配送するサービスをヨドバシカメラが始めるということがニュースになりました。
【話題のサービス・アプリ】 送料無料で最短2時間30分! 攻めの配送サービス「ヨドバシエクストリーム」 – INTERNET Watch
2016年9月15日、家電量販店のヨドバシカメラが、新しい配送サービス「ヨドバシエクストリーム(Yodobashi Xtreme)」をスタートさせました。
~(中略)~
東京都23区全域および武蔵野市・三鷹市・調布市・狛江市の一部を対象に、最短で2時間30分で荷物を届けるという即日配達サービスです。しかも配送料は無料。配達開始時には到着予定時間を1分単位で顧客に知らせてくれるほか、不在でも24時間再配達に対応するコールセンターを用意。対象地域は今後、順次拡張されていくそうです。
その早さもさることながら、なんと一品から無料で配達してくれるというのには驚きました。
さらに、24時間対応な上に1分単位で到着予定時刻を知らせてくれるというのは「すごすぎる!」の一言です。
日本の配送サービス(配送だけでなく他の多くのサービスもそうですが)はすごいと以前から思っていましたが、このサービスはまさに「エクストリーム」と呼ぶに相応しいものだと思います。
ヨドバシの狙い
ところで、このニュースに対してどのような意見があるのかをネットを検索してみたところ、流石に「やり過ぎでは?」という声もちらほら見かけました。
私もこれはさすがにやり過ぎな気がしますが、でも正直に言ってしまうと、もし私が日本に住んでいて夜などに急ぎで何か必要になった場合はありがたく使ってしまうと思います。
さらに言うならば、特に急ぎではなくても早く配達してくれるとやはり嬉しいと思います。
注文した物はできるだけ早く使いたくなりますし、私は何かを注文すると毎日「早く来ないかなー」と首を長くして配達を待っています。
きっとこれは私だけではないはずです。
だからもし無料ですぐに持ってきてくれるとなれば結構気軽に買い物をしてしまうようになるかもしれません。
ヨドバシとしてはこうやって客が気軽にどんどん注文してくれるようになることが狙いなのでしょう。
このようなサービスには相当なコストがかかると思いますが、宣伝の意味も含めてそれに見合うリターンがあるという計算なのでしょう。
オーストラリアの配達サービスはかなりヒドい
ここで私が現在住んでいるオーストラリアの配達サービスの現状はどうなのか?という話をしましょう。
オーストラリアは「オーストラリアポスト」という国営の組織が郵便業務を行っています。
私の今までの経験では、手紙や葉書などの「自宅の郵便受けに配達されるもの」に関してはあまり不満に思ったことはありません。
たまに隣の家の手紙が間違って入っていたりしますが、私はそれくらいのことは全然許せます。
そういった場合は隣の家のポストに入れてあげればいいだけですから大した問題ではありません。
毎年のように郵便料金が値上げされているのは気になりますが、メールなどを始めとするネットでの通信が増えて郵便局の利益が減っているらしいのでこれも仕方のないことだと思います。
またご存知の通り、オーストラリアは日本とは比べ物にならないほど国土が大きく、また砂漠地帯もあるのでそれらをを含めた僻地にまで届けるコストはトータルで莫大なものになることを考えても値上げは理解できます。
それでは何が酷いのかというと、小包などの配達についてです。
基本的に小包はオーストラリアポストに委託された民間の業者が配達しています。
これらの小包の配達に関する客からのクレームで良くあるものは、「家に一日中いたのにポストに不在通知が入っていた」ということです。
ちなみにこちらでは荷物を受け取れなかった場合、不在通知で指定されている郵便局に自分で受け取りに行かないとなりません。
日本のように「電話一本ですぐ再配達」などしてくれないのです。
郵便局が開いている時間帯に取りに行ける場合はいいのですが、そうでない場合は誰かに頼まないとならないのでそういう時は本当に面倒です。
ちなみに荷物は配達業者が車に積んだまま他の配達先を周って、夕方に郵便局に戻って不在で配れなかった物を置いていくシステムになっています。
なので不在通知を受け取ってすぐに郵便局に行ってもその郵便局にまだ荷物が来ていないので受け取ることはできません。
さて、ではなぜ家にいたにも関わらず不在通知が入れられていたのか?を説明をしましょう。
これはずばり、配達している運転手が手抜きをしているからです。
彼らは基本的には配達先の住所を回れば仕事はお終いなので、恐らくできるだけ早く終わらせて家に帰りたいのだと思います。
だから一々ドアベルを鳴らすなどして時間のロスになるようなことはせず、単に不在通知をポストに入れて周り最後に荷物を全部郵便局に置いていくのだと思います。
日本だったらニュースになるレベルの話ですが、こちらではこういうことが日常的に行われているのです。
実は確固たる証拠も掴んでいます。
以前私が外から帰ってきた時に偶然、配送業者の車が私の家の前に止まったので観察することにしました。
そうすると案の定、運転手はドアベルを鳴らさずにさっさと不在通知を書いてポストに入れていました。
その時はすぐに呼び止めて荷物を受け取りましたが。
全く、「お前は不在通知配達人か!」と怒りたくなります。
ちなみにさらに酷い運転手になると不在通知さえ入れません。
当然、不在通知が無かったら荷物が届いているのかも知ることができません。
もし荷物が送られてくることを知っていて、いつまで経っても届かないようならば郵便局に問い合わせることもできるでしょう。
しかしもし誰かが受取主に連絡せずに送ったりしていた場合(例えばギフトなど)は当然荷物が送られて来たことも知らないので受け取りに行くこともしません。
こうして受け取られなかった荷物は最高2回まで再配達してくるのですが、それでも受け取れないと荷物は送り主に返送されてしまいます。
もし配達人が同じならば再配達時も同じように不在通知を入れない可能性が高いので、こうなるともうどうしようもありません。
最悪、送り主は高いお金を払って国際郵便を送ったにもかかわらず返送されてくるという結末になるわけです。
ちなみに、もし荷物の到着を知っていたとしても、この「2回の再配達」は時間どころか日にちも指定できません。
つまりいつ来るかはあちらの都合次第なので、「それが嫌なら自分で郵便局に取りに来い」ということになります。
幸い私は返送されるまでになったことはありませんが、家に居たのに受け取れなかったということは数えきれないほど何度もあります。
その度に郵便局に取りに行っていたのですが、ある時さすがに頭にきてオーストラリアポストの本部に相当きつい内容でクレームを入れたことがあります。
ちなみになぜ最寄りの郵便局ではなく本部にクレームを入れたかというと、最寄りの郵便局に文句を言っても「配達はうちが担当しているわけではないから分かりません」と言われて何も対応してくれないということをネットで聞いていたからです。
まあ、こういうのもいかにもオーストラリアらしい対応なわけですが。
そしてさすがに本部にクレームを入れて以降はきちんとドアベルを鳴らしてくれるようになりました。
ところで、「ドアベルを鳴らしてくれるようになった」ことに喜んでますが、よく考えてみるとこんなことは彼らの仕事なのですから当然なわけです。
しかしその「当然なこと」が行われるようになっただけで喜んでしまうのがオーストラリアなのです。
ちなみに、民間の配達会社は日にち指定の再配達はしてくれますが、送料が高い割にはそれほどサービスが良いとも思えません。
例えば私が最近注文した品物は民間の業者によって配達されてきましたが、やはり不在通知さえ入っていませんでした。
その業者のサイトで配達状況を追跡でき、不在時に来たことが分かったので仕方なく再配達を依頼しました。
その日は木曜日の午後だったのですが、オペレーターに問い合わせると、「明日の配達は時間的にもう無理です。土日を挟むので次の配達は月曜日になります。」と言われました。
日本のように当日中の再配達や土日も来てくれるようなサービスなどはオーストラリアではとても望めません。
これでも再配達日を指定できる民間の業者はまだ良いほうです。
話をまとめると、送料の安いオーストラリアポストならば最低レベルのサービス、それよりも結構高いお金を出して民間の業者を使えば日にち指定が可能(日本のような時間指定などは夢のまた夢)な再配達はしてくれる少しだけまともなサービスを受けられるということです。
ちなみにですが・・・先程の、月曜日に再配達の指定した荷物はなぜかその前の金曜日に送られてきました。
日付指定の意味全然無いし!!コールセンターの意味無いし!!
幸い、偶然家に居たので受け取ることができましたが、本当にメチャクチャです。
まあ、荷物を受け取れたので良しとします・・・
ところで先程から私は「オーストラリアのサービスはひどい」と言っていますが、恐らく世界ではこれがごく標準的なレベルのサービスなのではないかと思います。
(そういえば早く配達するので有名なアマゾンがあるアメリカは少しはマシなのでしょうか?)
つまり、不在届を置いて行かないとかそもそもドアベルを鳴らさないとかいうのも恐らくどこの国でも似たり寄ったりではないかと思うのです。
日本の狂気レベルのサービス
ここまでのオーストラリアの話を読んで「日本に生まれてよかった」と思う人はたくさんいるでしょう。
確かに、こんな「低レベルなサービス」が標準の世界の中で日本だけは例外です。
- 日付指定、時間指定は当たり前。
- 土日、祝日配達も当然OK。
- 夜の8時くらいまで配達してくれる。
- 当日中の再配達も当たり前。
- 配達にかかる時間はできるだけ短く。
- それに加えてコストはできるだけ安く、できれば無料で。
という感じで、みんなこれらのことが当たり前のように考えています。
それではヨドバシエクストリームのような便利で安いサービスが次々と出てくるとどうなるでしょうか?
利用者側は最初は「便利になった」と喜ぶでしょうが、そのうちそれが当たり前のように感じるようになり、さらに上のサービスを求めるようになるでしょう。
前出のINTERNET Watchの筆者は記事の最後に以下のようなことを書いています。
真夜中にパソコンが壊れた、ハードディスクが飛んだ、プリンターのインクが切れて印刷が滞った、体調不良でコンビニにも行けないといった状況では、スピーディな配送は本当に助かりますね。ただし、現在はまだ対象エリアが限られていることや、検索にヒットはするものの、取り扱い期限が切れていて購入できない商品も見られるため、今後は対象エリアと品数の差を詰めていって欲しいところです。
まったく、人間の便利さを求める欲求にはキリがありません。
それに加えて、これらの「当然と思っている要求」が少しでも満たされないと不満に思うようになります。
例えば指定された時間よりも少し遅くなったり、料金が無料ではなくなったりすると途端にクレームを言う人が出てくるわけです。
冒頭で私は「隣の家の手紙が入っていても気にしない」と言いましたが、日本ではそういったアクシデントに対してもいちいち郵便局に電話してきて延々と文句を言う人がいるそうです。
そういった場合は、配達人がそこまで出向いて謝罪した上で誤配達の手紙を受け取って隣のポストに入れるそうです。
まあ、誤配達をした郵便局側に落ち度があるのであからさまには文句も言えないでしょうが、客には聞こえないところでは配達員は「そんなのただ隣のポストに入れてくれればいいことじゃないか。一々文句を言ってくるな。暇人が。」と言っているわけです。その気持すごく分かります。
便利さを求めて行き着く先は?
さて、「便利になって何が悪いの?どんどんサービスが向上して便利になればいいじゃないか」と言う人もいるでしょう。
私も便利なのは好きです。
最初にも述べたとおり、注文した物は早く配達してもらってすぐにでも手に取りたいと思います。
しかし、こうやって便利なサービスを求めるということはそれを供給している人がいるということを忘れてはいけません。
夜の8時に配達をするためにその時間やそれ以降まで働いている人がいます。
何人もの人がドライバーに電話して再配達を依頼したら、そのドライバーは一度通った道をまた何度も走らないとなりません。
ドライバーだけではありません。
荷物を早く届けるために深夜も仕分けなどをする人が必要ですし、その他にもそれに関わるたくさんの人が働かないとなりません。
ヨドバシのような「究極のサービス」を支えるために一体どれだけの人が深夜や休日にも働かなければならないのでしょうか?
え?「自分は配達とは関係のない仕事をしているからどうでもいい」?
そんなことはありません。
このような過剰なサービスを受けてそれをみんなが当たり前だと思うようになると配送だけでなく他のサービスにまで便利さが求められるるようになってきます。
また会社同士の過剰なサービス競争にも繋がります。
あなたがもし有り余るお金を持っていて仕事をしなくても良い身分なら関係のない話かもしれませんが、もしそうではなくて生活のためにお金を稼がなければならない立場ならばいずれはあなたにも過剰なサービスの提供が求められるようになり、休む暇もなく働き、非常に高い客の要求を満たさなければならなくなるのです。
郵便に限らず、オーストラリアのサービスは大体が低レベルだと感じますし、日本と比べたらお話になりません。
なので確かにイライラすることもありますし、正直なところ、「日本だったらこんなの簡単に終わることなのに」ということは結構あります。
しかし自分が仕事をしなければならない立場になると、この「適当さ」が味方になります。
なぜなら自分の仕事にも過剰なサービスや仕事が求められないからです。
他人も適当だけれど自分も適当でいいのです。
私はどんなに便利なサービスを受けられるようになったとしても自分が過度なストレスに晒されて仕事や生活をするのは御免です。
それくらいならば「他人も楽、自分も楽で仕事はほどほど」で、「人生を楽しめる生活」なほうを選びます。
また、上のINTERNET Watchの記事の引用の中に、「真夜中にパソコンが壊れた、ハードディスクが飛んだ、プリンターのインクが切れて印刷が滞ったなどの時には便利なサービス」と書かれていますが、一体どれだけの人がその仕事を真夜中にやらなければならないのでしょうか?
昔ならばそのような状況になったら「もう今日はお店も開いてないし、必要なものも買えないから明日やることにして今日は休もう」ということになったでしょう。
しかしこのようなサービスがあるお陰で休むこともできなくなるわけです。
世の中がどんどん便利になってきています。
より遠いところにより短い時間で行けるようになり、品物はより短い時間で届くようになり、遠く離れている人と簡単にコミュニケーションをとる手段も様々なものが提供されるようになりました。
そして多くの人はそれでできた余剰の時間を使って休むのではなく、さらに多くの仕事や予定を詰め込んでいるのです。
つまり便利になればなるほど忙しくなっているということです。
一度素晴らしいサービスに慣れてしまった日本人がオーストラリアのような適当な社会に戻ることは恐らく無理でしょう。
しかし、みんなが便利さを求めると結局はみんなが忙しくなるのだということは知っておくべきではないでしょうか。