ニュースを見た方も多いと思いますが、最近ある社労士がブログで「社員をうつ病にさせる方法」をアップして大きなニュースになりました。
ある社労士のとんでもない投稿内容
ブログに「社員をうつ病にする方法」投稿 社労士“ブラック化”に波紋 「精神的ダメージを与えることが楽しくなる」 – 産経ニュース
具体的な内容は以下の通りです。
先月24日には「第40回 社員をうつ病に罹患させる方法」と題する記事を投稿。Q&A形式の記事となっており、「モンスター社員をなんとかうつ病にして会社から追放したいのですが、いい方法はありますか」との問いに対し、「適切合法なパワハラを行ってください。適切にして強烈な合法パワハラを与えましょ う」などと書き込んだ。
「万が一本人が自殺したとしても、うつの原因と死亡の結果の相当因果関係を否定する証拠を作っておくことです」などとも記載。「うつ病自殺されても裁判で負けることはありません」と続けた。
締めはさらに強烈だ。
「モンスター社員に精神的打撃を与えることが楽しくなりますよ」
この社労士の発言の酷さについては言うまでもないですが、今回は日本の社会におけるこの発言のもっと根本的な原因について書いていこうと思います。
日本では規制によって解雇が難しい
上記の記事では「なぜ社労士がブラック化してしまったのか?」と疑問を投げかけ、その答えとして以下のように書いています。
社労士は現在、飽和状態にある。新規参入組らにとっては、顧客獲得が難しい状況となっており、ビジネスチャンスを作るため、あえて労使間に紛争を起こさせる反社会的な社労士が一部で登場しているのだという。
この社労士がこのような発言をした直接的な理由はきっとそうなのでしょう。
しかしこれは、「社労士がたくさんいてビジネスが厳しいから目立とうとしてこのようなことをしたのだ」で終わらせてしまっては勿体無い事件です。
問題は、こんな酷いアドバイス(?)でも役に立ってしまうかもしれない、日本のある規則にあります。
それは法律上、「会社が正社員を簡単には解雇できない」ということです。
「海外では会社の意向で簡単にクビにできるから労働者にとっては厳しい社会」
「逆に日本の労働者は法律で守られているから海外より労働者に優しい」
という話を聞いたことがある人も思います。
これは半分は事実です。
「半分」というのは「海外では必要なくなればすぐにクビになる」という部分です。
欧米では要らなくなったらさっさとクビ
海外の映画やドラマで即日解雇を言い渡されて私物を詰め込んだ段ボール箱を抱えて会社を去るシーンなどを見たことがある方も結構いるのではないでしょうか?
私も日本にいた頃は映画の中の「自分とは関係のない別の世界」の1シーンでしかありませんでしたが、実際にオーストラリアで就職したある会社でこれを身をもって体験することができました(笑)
私の以前の記事(「帰りたい!」でも「帰れない」-なぜ自分の仕事が終わっても帰れない?) でも書きましたが、オーストラリアでは自分のポジションに対する職務がきっちり決まっているので、そのポジションが会社にとって不要になったら基本的に異動などは無くそのまま解雇となります。
もし運が良ければ他の部署で人員を探していて偶然にも自分のスキルがそれにマッチしていて、部署を移って同じ会社で働き続けることができるようになるかもしれません。
しかし大抵の場合はそういう幸運なこともなくあっけなく解雇になります。
いつもと同じ日だと思って出社したらマネージャーから会議室に呼び出されその場で解雇を言い渡されるというのはいろいろな意味でかなりショックな経験です。
そしてその後は会社のセキュリティ的な理由から、自分のPCの操作などをする時間もほとんど与えられず短時間で私物をまとめて会社を出て行かないとならないのです。
こんな経験をするのが好きな人はいないと思いますが、私も二度と味わいたくない思い出です。
(これもある意味いい経験だったと今では思えるようになりました。それでもやはりもう一度は勘弁して欲しいですが)
日本は労働者に優しい?
こういう話をすると「簡単にはクビにされない日本に生まれて良かった」と思う人もいるでしょう。
ここからは肝心の残りの半分の部分「海外は厳しいが、日本の労働者は法律に守られているから海外より労働者に優しい」についてです。
まずは日本ではどの程度正社員の解雇が難しいのか、どう難しいのかを調べてみました。
この記事にはOECDの調査データが載っています。
それによると日本の「解雇の難しさ」の指数はアメリカの二倍以上で「日本はOECD諸国の中で実質的に最も解雇規制が厳しい国のひとつ」だそうです。
解雇するには、企業にとってかなりハードルの高い4つの要件をクリアしなければならないからだ。これが「整理解雇の4要件」。戦後の様々な労働裁判の判例が次第にまとめられ、4つの要件に絞り込まれた。この要件を満たしていなければ、解雇しても裁判では負けてしまうのである。どうしてこんな厳しい要件があるのか。社会保険労務士の園田雅江さんはその背景を語る。
「日本の労働法は、労働者から搾取する使用者が多かった時代に、工場労働者を守る目的で整備されたんです。だから、基本的に労働者に極めてやさしい。労働者は弱い立場なので、その権利を守る形になっているんです」
ちなみに、「整理解雇の4要件」というのは
- 人員整理の必要性
- 解雇回避努力義務の履行
- 被解雇者選定の合理性
- 手続きの妥当性
というものらしいです。
それぞれの要件の詳しい説明を知りたい人は上記のページを参照してみて下さい。
これを見る限り確かに日本では正社員は法律に守られていて簡単にはクビにならないようです。
よく言われていることですが、「終身雇用」が前提だった古き良き時代はこれで良かったのです。
ある部署で人員が必要なくなっても他の部署に移したりして会社もなんとか社員をクビにせずに収めようとしてくれていました。
『「帰りたい!」でも「帰れない」-なぜ自分の仕事が終わっても帰れない?』でも出てきた「職務無制限」がここでは上手く働いていたのだと思います。
「職務無制限」とは、簡単に言うと自分の職務とは違う分野の部署などの仕事も必要とあればサポートするということです。
つまり誰でも自分の職務にとらわれずに他の部署でも働けるということで、ある意味ものすごく柔軟なシステムです。
解雇規制があっても会社は社員を解雇しようとする
しかし景気が悪くなり、どこの部署も「これ以上の人員は必要ない」という状態になった場合、会社としては人件費を削るためにも社員を解雇しないとならなくなります。
こういう状況になると解雇を難しくしている日本の法律が邪魔になります。
そして困った会社が取る方法が、「社員が辞めるように仕向ける」です。
無理な目標を押し付けて達成できなければ必要以上に厳しい叱責をしたり、「追い出し部屋」に異動させたりと、様々なパワハラによって社員が自ら辞めるように仕向けます。
私が昔日本で働いていた頃、ある同僚は全く関係のない部署に異動させられてしばらくして辞めていきました。
上記の社労士が「社員をうつ病にして辞めさせる方法」という発言をしたのは、こういった社会的背景があるからです。
嫌な話ですが、少なくない数の会社が「不要になった社員はうつ病にさせてでも辞めさせたい」と願っているのです。
今の学生はとにかく名の通った大企業に正社員として就職することが一番の目標のようですが、景気の良くない現在ではこのような手段によって社員をやめさせようとするのは大企業でも同じことです。
追い出し部屋などの問題でニュースになっている会社の中には誰でも知っている大企業も含まれています。
そういった会社で追い出し部屋に送られてうつ病になった人はきっと何人もいるでしょう。
こんな状況でも「日本では正社員は解雇されにくいから安心」などと喜んでいられますか?
解雇規制が生み出す悲劇
労働者が守られる法律は素晴らしいと思います。
しかし今となってはこれが逆に悲劇を生み出す原因になっています。
その上、このような厳しい要件を回避するために企業はいつでも解雇できる非正規社員をどんどん増やしています。
これでは厳しい法律があっても意味がありません。
会社に残ってうつ病にさせられるのと、さっさと解雇されてもまた元気に転職活動できるのとどちらがいいでしょうか?
もちろん人によっては「転職先など見つからない」「今収入がなくなったら生活費にも困る」というような状態だったら即日解雇されたりしたら辛いでしょう。
しかし会社に病気にされては元も子もありません。
そもそも労働者がお金が目的で会社に労働力を提供しているのと同じように、会社は労働力が欲しくてお金を払っているのですから、どちらかがその必要がなくなったらそこで両者の関係を終わらせるのが自然な流れなのです。
それをさせないように縛り付けるからこのような悲劇が生まれるのです。
なんでもかんでも欧米を見習ったほうがいいとは言いませんが、少なくともこういったパワハラによって病んでしまう人が出るような異常な状態を少なくするなんらかの措置は必要でしょう。
そのためなら今よりも解雇しやすいように規制を緩和するのも有りなのではないかと思います。
いくら法律で縛りつけたところで、労働力が余剰になり、その労働力を維持する予算的な余裕が無くなれば会社は最終的にはなんとしてでも解雇しようと思うわけですから。
実はオーストラリアでは即解雇されてもすぐに生活に困ることが無いので転職活動でそれ程焦る必要はありません。
なぜかを知りたい方は以下の記事を読んでみてください。
>>【海外失業サポート事情】失業してもオーストラリア人が安心していられる理由とは?
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