
大雪で社畜論争
日本では大雪をきっかけに新年早々ネットで「社畜論争」が繰り広げられたようです。
争点は「雪の日でも定時に出社するのは当然」か「そんな日にまで出社を強制するのは社畜」かというものです。
こういう論争を見る度に溜息が出ます。
本当に日本はいつまで経っても変わりませんね。
そんな中、なぜみんな雪の日にわざわざ危険や混雑を承知で出社するのかということが書かれた記事がありました。
興味のある人は読んでみてください。
大雪でも定時に出社する人々は「社畜」なのか|あなたを悩ます「めんどい人々」解析ファイル|ダイヤモンド・オンライン
要約すると、雪の日も出社する人は会社に忠誠を誓っているからではなく、社内にいる「社畜」が他の社員がきちんと定時に出社してくるか監視しているから嫌でも遅刻もせずに出社せざるを得ないのだということです。
この、「雪の日でもきちんと他の社員が出社してくるかを見張っている社畜」のことをこの記事の筆者は「社畜ポリス」と呼んでいます。
「社畜ポリス」と聞いても一瞬、どんな意味なのか分からないのが少し難点ですが、その由来を聞くとなんとなく納得できる言葉です。
ちなみに最初私は社畜を取り締まる人のことかと思いました。
何かもっといいネーミングがあったらいいですね。
記事で紹介されている「社畜ポリス」の主張は以下の通りです。
* 定時に出社するのは、社会人として当たり前
* 雪が降ることがわかっていたのだから、事前に対策を考えておくべき
* トラブルを回避するのも、社会人に必要な能力の一つ。それができない奴には、重要な仕事は任せられない
* いかなる場合も遅刻は甘え。学生気分が抜けていない
まさに毎度よく見かける社畜の鏡のような意見です。
断言しますが、こういう思考の人間がいる限り過労死やうつ病などの人が際限なく生産され、日本で社会人になる壁は高いままですね。
この記事は以下のように締めくくっています。
問題を解決するには、会社がきちんとした方針を打ち出すしかない。雪や台風などの天災や、不測の事態が起こった時に、どのような出勤体制を取るのか。ルールを作って、自警団の活動を抑え込む必要がある。社畜ポリスの存在は、会社にとって都合がいいものかもしれない。なにせ、勝手に風紀を取り締まっ てくれるのだから。
しかし、自警団の活動を放置すれば、社内がギクシャクして空中分解になりかねない。さらに、通勤中に大怪我するなどの事故が起こった場合は、誰が責任を負うのか。
これ以上、東京に社畜の雪を降らさないために、会社側がしっかりとルールを整備してほしいものだ。
確かに会社がルールを作るのはこの問題を解決する最初の一歩だと思います。
そして今回の大雪の日にそれに近いことを実践した会社があるようです。
あの雪の朝、「自宅勤務可」を即決した社長:日経ビジネスオンライン
この会社の社長は全社員にメールで「業務に支障が無い限りできるだけ家で働くように」という指示を出したそうです。
平野社長は「日本では、雪の中頑張って会社に出たことを評価する風潮があるのかもしれない。ただ、我々の仕事は単純作業ではなく創造性が必要で、心の持ち 方がアウトプットに大きく影響する。時間と労力をかけてオフィスに来るよりも、場所はどこであれ効率よく仕事をしてもらいたかった」と話す。
この社長の考え方はとても合理的だと思います。
こういうまともな会社が日本にもあることを知るだけでも救われた気分になります。
会社の目的を考えれば何が「害」で何が「益」かは明確
会社の最重要目的は利益を出すことです。
その利益を最大化するために社員を雇います。
普段は仕事上顔を合わせて作業したほうが効率的なことが多いからみんなでオフィスに集まって仕事をするわけです。
決して社員をオフィスに来させることが会社の目的ではありません。
こんなことは誰でも分かることです。
つまり会社としてはきちんと仕事が回ればそれで良いわけですし、たまに家で働いたからといってそれが阻害されるとも思えません。
ましてや、降雪で通勤に普段の何倍も時間がかかることが予想されるのにわざわざ出社させて大切な労働者を仕事の前に疲弊させてしまって業務に影響が出てしまっては元も子もありません。
これを軍隊に例えてみましょう。
戦いの直前に必要もない厳しい訓練をさせてわざわざ自分の兵が疲れるようなことをさせる上官などいないでしょう。
特に大事な戦の前なら兵士に十分な休息を取らせるものです。
しかしこの軍隊の中にあって、一兵卒にもかかわらず他の兵士に「こういうときも休まず訓練しろ」と強制させ、大事な兵士を疲弊させているのが「社畜」です。
社畜兵士が怖くて一般の兵士は休みたくても休むことが出来ません。
こうして疲れきった兵士が戦いにおいてその能力を十分に発揮できるとは到底思えません。
こういう社畜が蔓延っている会社では有能な人間は愛想を尽かしてどんどん離れていくでしょう。
また何らかの理由で会社から離れられない人間は心身ともに病んでいって結局辞めることになるでしょう。
いかに社畜が会社にとって都合がいいどころか有害なことが分かると思います。
社畜が都合がいいと思っているのは馬鹿な経営者だけです。
こういう会社は決して世間が認める一流の会社にはなれません。
社員を使い捨てにして一時的に大きくなって成功したように見える会社もありますが、そういう会社もいずれしっぺ返しを喰らいます。
大きな企業ほど一度ネガティブなイメージが定着してしまうと元の信頼を取り戻すのは至難の業です。
社畜が会社にとって利益にならないことを見抜けないような経営者がやっている会社が一流企業として成功できるはずがありません。
社員の安全管理を軽視する会社のリスク
私が働いているオーストラリアの会社では天気が荒れそうな予報の時は自宅で働いたり、早退したりするのは全くの自由です。
時には会社から早めに帰宅するようになどの指示が出ることもありますが、基本的にはそのような会社の指示がなくてもみんな個人の判断で上司に許可をとって早退や在宅勤務をします。
無理に出社したところで「こんな天気でも出社して偉い」などと言ってくれる人は一人もいませんし、当然そんなことをしたところで勤務評定が上がったりすることはあり得ません。
むしろ、「なんでこんな時に出てきたの?家で働いていていいのに」と言われるのがオチです。
これは正に最初に紹介した記事の筆者が指摘している通り、「会社が無理に社員を出社をさせて怪我でもしたら誰が責任を取るのか」という問題に発展する可能性が大きいからです。
日本のブラック企業だったら天気が荒れている日に社員が出社して怪我をしたとしても「出勤時の怪我は自己責任」などと言うのでしょうが、オーストラリアではそんな屁理屈は通用しません。
確実に会社の責任が問われて下手をすれば裁判沙汰になるでしょう。
そのようなリスクを避けるという意味でもオーストラリアの会社は社員に対する仕事環境や安全に対してとても敏感です。
それに対して日本の会社はこういう所の危機管理が全くなっていません。
もしかしたら日本でも怪我の度合いによっては訴える人が出てくるかもしれません。
そういう事件を望んでいるわけではありませんが、きっと日本の会社は訴訟に発展するような事件が起こるまでは何もしないでしょう。
前述の記事の筆者が指摘しているように、現在の日本の社会では会社がルールを決めない限り自然災害時に遅刻をしたり、自宅勤務をすることは難しいでしょう。
そういう意味では、もう一つの記事に出てきたように社長が指示をして社員全員に意思を伝えるというのは一つの良い例だと思います。
オーストラリアのような被雇用者の権利が尊重されている社会からは程遠い今の日本では「全員で会社のルールに従う」というのがベストな方法でしょうが、いつの日か日本でもオーストラリアのように「社畜ポリス」のいない、生産的で合理的で人間らしい働き方が許される社会になって欲しいものです。