世間ではビットコイン/仮想通貨の話題で持ちきりですね。
今回は流行に乗って(?)仮想通貨関係でちょっと気付いたことを書いてみたいと思います。
最近では新しく発行されたばかりのコイン(いわゆる「草コイン」と呼ばれているもの)を狙おうという人が増えているようです。
「ビットコインは値段が上がり過ぎているので、今後急激に上がることは期待できそうもない」という予測から、もっとマイナーなコインを安いうちに買ってその後の爆発的な値上がりを期待しようというわけです。
新しいコインは毎日のように発行されています。
こういった草コインを安いうちに買っておいたら、うまくいけば将来100倍くらいになる可能性もあります。
しかし、仮想通貨は誰でも勝手に発行できるものなので、これらの草コインの中には怪しい会社や団体がお金を巻き上げるためだけに発行する「詐欺コイン」も多くあります。
公式サイトがいかにも怪しげだったりして、ちょっと詳しい人であれば「怪しい」と分かるものでも素人は簡単に引っかかってしまったりするものです。
また、詐欺かどうかわからないものの、ちょっと詳しいつもりの人でも、「これは大丈夫そう」と思ってしまうものもあります。
私が最近見かけた「BitAir(BTCA)」というコインもそのようなコインの一つです。
BitAirの発行会社はASICに登録されているから信頼できる?
BitAirのサイトによると、BitAirは飛行機のチケットや旅行会社にツアーなどの観光サービスなど、旅行に関わる支払いに使われる予定とのこと。
彼らが主張するBitAirの強みは、
- 全てのトランザクションが明確に分かり、変更不可能である
- 通貨の両替コストがかからない
- 時間がかかる銀行間取引よりも早く処理できる
- 全てのウォレットにはランダムな文字が割り当てられ、高いプライバシーを実現できる
とのことです。
今となってはビットコインは遅すぎる上に送金にかかる料金が高すぎて支払いに使うのには向かなくなってしまいましたが、「その他のメジャーなコインでトランザクションが速いものであればどのコインでも上の要件を満たすことができるのでは?」と思うのは私だけでしょうか?
BitAirというコインを新たに発行して、旅行代金の支払いにわざわざ使わなければならない理由がいまいち分かりません。
まあ、私がこのコインに価値観を見出すかどうかを論じるのは今回の記事の趣旨ではないので置いておきます。
さて、このBitAirは、”Asia Pacific Travel PTY LTD”というオーストラリアの会社が発行しているそうです。
問題はこの会社が信用できるのかということなのですが・・・
まず、BitAirについて書いている日本語のブログサイトを検索してみると、結構ありました。
みんな色々と調べているようですが、ほとんどのサイトが以下の理由からこの会社は信頼できると結論付けています。
- オーストラリア、インドネシア、フィリピンの政府から企業登録証明書が発行されている。政府のサイトで登録番号で検索するときちんと表示され、証明書も出てくる
- それぞれの国の登録住所はGoogle Mapsで見ると実在している
- ストリートビューでもきちんとそこに建物が写ってる
「ここまで身元のはっきりした会社が発行するコインを見逃す手は無い!」「買うなら今のうち!」とまで言っている自信満々のサイトもあります。
ここで出てくる、「オーストラリアの政府」というのは ASICという機関で、確かにオーストラリアの正式な政府機関です。
私もASICのサイトでこの会社の番号を検索してみたところ、確かにその会社名が登録されていました。
しかし、「政府機関のサイトで登録されているのならこの会社は信頼できるだろう」と考えるのは早計です。
なぜか?
それは、「お金さえ払えば誰でもASICに登録できるから」なんです!
「でも、登録するからにはASICがちゃんとその企業が信頼できるかチェックしてるんでしょう?」と思うかもしれません。
してません!(笑)
実は私の妻は個人で小さいビジネスをやっているのですが、会社をこのASICに登録しています。
でも、会社をやっていてもASICに登録する必要は必ずしも無いのです。
それではなぜ登録するかというと、「会社名を他の人に使われないようにするため」です。
日本でもそうだと思いますが、オーストラリアでは会社名は早いもの勝ちなので、ASICに登録しておけば他の人は使えません。
私の妻のような零細ビジネスで会社名が他の人に使われたところで何の問題もないのですが、なぜ登録したのか本人に聞いてみたところ、「ASICの会社登録証を壁に張り付けておけば何となく格好が付くから」ということでした(笑)
話がそれてしまいましたが、妻がASICに登録を申請した際には登録したい会社名と住所などの基本情報を送っただけで簡単に登録され、「会社がきちんと存在するのか」「きちんと運営されているのか」「住所は正しいのか」などのチェックは一切無かったそうです。
つまり、例え実際に何のビジネスも行っていなくても、適当に友達の家の住所を書いて好きな会社名を送ればASICに登録されるのです。
このことを知っていたら、「ASICに登録されているから信用できる」なんて考える人はいないでしょう。
怪しさ満点の発行会社
ところで、私が「BitAirは詐欺かもしれない」と言っている理由は以下のようなページや、フォーラムでの会話を見たからです。
WARNING** — BitAir is a scam ICO. – David Freuden – Medium
このページは英語で書かれているので、この人の主張をざっと箇条書きで書いておきましょう。
- ホワイトペーパーのページが現在はエラーで表示されない
- Cheapbooking.com.ph、Cekbooking.com、Trippyflight.comといったネット企業と取引をしているとホワイトペーパーで主張していたが、その一つのドメイン名は2017年3月に登録されたばかりで、しかもそのオーナーは実はAsia Pacific Travel自身。だから、彼らがホワイトペーパーで主張していたような「顧客」ということにはならない
- その他の二つのドメイン名にしても、一つはゴミみたいなサイトがあるだけで、もう一つはサイトさえ存在しない
- 「2017年に10億ドル以上もの収入があった」と主張しているが、私の調査ではそのような事実は見つけられなかった
- 10億ドルの歳入がある企業というのは7千名以上の社員がいるのが一般的で、そのような会社は普通、もっと多くの情報が得られるものだし、もっとましなウェブサイトとコールセンターがあるはず
- ASICに登録されていると言っているが、ASICは料金を支払うだけで登録され、登録にあたって何の認証プロセスも無い。そのため、わざわざ「ASICに登録されている」と主張することは誤解を引き起こす可能性がある
- 登録されている住所は「住宅エリア」にあるものであり、「ビジネスエリア」にあるものではない
- スタッフのLinkedInは全て未完成で最近作成されたものばかりであり、仮想通貨のエキスパートと呼べるような人物のものは一つもない
- Twitterアカウントは6か月前に作られたばかりでほとんどのフォロワーは偽物である
この人が指摘しているASICの登録プロセスについては、上で書いた通り私の知識と経験から見ても正しいものです。
そして私も会社の住所のストリートビューを見てみましたが、ここは正に「住宅地の中のアパート」ですね。
オーストラリアに少しでも住んでいる人が見れば、この写真を見ただけで「ここは住宅地であって、オフィスがあるような場所ではない」と分かります。
まあ、アパートの一室をオフィスとして使ってもいいわけですし、個人ビジネスの会社とかならそういうのは全然アリです。
でも、「歳入10億ドル」の会社の所在地としてはかなり違和感があるのは否めません。
その他、ビットコインフォーラムでも「BitAirは詐欺だ」と言われています。
長くなってしまうのでフォーラムの内容はここには書きませんが、興味のある人は以下のページを見てみてください。
‘Bitair’ is a SCAM! Stay away!
調査は念には念を入れて
BitAirの発行会社は11月頃まで、「今買ってくれたら45%のボーナスコインを差し上げます」というようなキャンペーンをやっています。
そして最近、HitBTCに上場しました。
HitBTCがそれぞれの新規コインに対してどの程度のチェックを行っているのか知りませんが、取引所が上場させたということは、もしかしたらBitAirは本当に信頼できる会社が発行したものなのかもしれません。
でも、私だったらこのような会社が発行したコインにはとてもではないですが怖くて手が出せません。
私はこの記事で、「これらの情報を見る限り、BitAirは詐欺だ」と断定しているわけではありません。
「詐欺だ」と散々疑われながら上場し、今では時価総額トップ10に入るまでになったADAコインという例もあります。
(ADAコインが詐欺だったと分かり、将来ゴミコインになる可能性だってあるわけですが・・・まあ、仮想通貨自体が全てゴミになる可能性だってあるので言い出したらキリがありませんね)
このBitAirの例から私が言いたいのは、「草コインに手を出すのであれば念には念を入れて調べてから決めたほうが良い」という事です。
ほとんどの場合、基本的な情報や、上で紹介したような噂話は英語で発信されます。
最低でも英語で検索してみましょう。
そして、もし、「これは詐欺だ」と言っている人がいたらその根拠が正しいのか自分で調べましょう。
よほど自分の調査に自信があるのなら別ですが、詐欺だと疑われているものには手を出さないほうが無難です。
今回、BitAirについて書こうと思ったきっかけは、BitAirの発行元がオーストラリアの企業と書かれていたからです。
もし私がオーストラリアに住んでいなかったら、日本語のブログを書いている人たちと同じように、「オーストラリア政府の機関であるASICに登録されているのであれば信頼できる会社だろう」と信じていたかもしれません。
実際、このAsia Pacific Travel PTY LTDが取得したという、オーストラリア、インドネシア、フィリピンの3か国の政府からの証明書のうち、オーストラリア以外のものについては私もどの程度信頼できるものか分かりません。
やろうと思えばこれらの機関の認証プロセスを調べることはできるでしょうけど。
何が言いたいかというと、BitAirはただの一例に過ぎず、草コイン全てについて、「ちょっと調べただけで信じてはならない」ということです。
詐欺でお金を巻き上げようとしている人達は目的達成のために多くの努力(?)をしています。
素人が少し調べただけで「怪しい」と分かってしまうようでは、とても詐欺で食べていくことはできないでしょう。
例えば、オレオレ詐欺にしても、詐欺に遭ったことのない人は、「なんであんな詐欺にひっかかるの?自分だったら絶対に騙されない」と思っている人が多いと思います。
昔は「オレオレ」と電話するだけで結構な人が騙されたかもしれませんが、今では「オレオレ詐欺」のことはみんなが知っているのでそこまで簡単にはいかないでしょう。
でも、詐欺をするほうはそんなことは百も承知で、その上で、「どうやったらさらに多くの人を騙せるか」と新しい手口を日々研究しているわけです。
これだけ「オレオレ詐欺」という名前が広まって、その名前を知らない人がいない程になったのに、未だに詐欺に遭ってお金を失った人のニュースが絶えないことがいい証拠です。
だから、「政府機関のサイトで登録されている」とか「住所も実際にありそう」ということだけで信用してしまうのはとても危険だということです。
最後に、多くの先達の人達が口を酸っぱくして言っていることですが、一番重要なのは、「例え詐欺で失ってもいいお金だけを使うこと」です。
決して、失ったら首をくくらなければならないようになるようなお金は使ってはいけません。