能力の低い社員はワークライフバランスを要求する権利は無い?

最近、こんな記事を見つけました。

増え続ける「勘違いワークライフバランス」 ~「ツケ払い退社」する社員が急増中!(横山信弘) – 個人 – Yahoo!ニュース

筆者の横山氏は他のサイトでも記事を寄稿していますが、「目標は絶対達成」させるコンサルタントということで、今までの記事での氏の主張を見る限り、目標の達成のためにはひたすら社員に無理強いをさせるというものがほとんどです。

目標を達成した会社や経営者はハッピーかもしれませんが、そのために犠牲になった社員はたまったものではありません

さて、上記の記事の横山氏の主張を簡単に説明すると、

  • 政府が進める「働き方改革」の成果単位での労働(裁量労働制)に賛成
  • 与えられた仕事が終わらないのに定時で退社するような社員は「ツケ」を残しているのと同じ。それで他の社員が迷惑をこうむることになる。けしからん。
  • ワークライフバランスという言葉が普及してきたせいで、仕事が終わっていないのに定時で帰る勘違い社員がたくさんいる。けしからん。
  • とにかく仕事が終わるまでは帰るな。つべこべ言わず働け。

ということです。

まあ、こんな意見を聞いて喜ぶのは経営者か社畜だけでしょうが。

上司の仕事は?

記事の中からいくつか気になったところを引用しましょう。

ホワイトカラーの仕事には、1日単位ではなく、3日単位とか、1週間単位の仕事もあります。

~(中略)~

締め切り直前となってはじめて想像以上に時間がかかることがわかったり、突発的な仕事が入ったりしたら、「やるべきこと」を完遂できないケースもあるでしょう。
その様子を近くで見ていた上司は、
「今週金曜日までが期限でしたが、いろいろ想定外のことがあったので来週火曜日まででもいいですか?」
と言われて、納得いくでしょうか。
「その割には毎日定時で帰宅していたじゃないか」
「昨日もおとといも、飲みに行ってただろう? フェイスブックで楽しそうに飲んでる写真、アップしてるの私は知ってるんだよ」
と言いたくなります。

特に、その仕事にどれぐらいの時間がかかるのかまだ見極められない若者、経験の浅い人は「時間単位」で仕事をすべきではありません。最初から時間内に終わりそうもない仕事を依頼する上司がいるなら問題ですが、そうでないなら「やるべきこと」をやり切るまで帰宅すべきではないでしょう。

なんなんでしょうね、この、「出来ない人間は帰宅などせず死ぬまで働け」的な思考は。

某有名居酒屋チェーンの元社長とそっくりの意見ですね。

大企業での過労死や自殺がいくつもニュースになり、これらの企業イメージに大きな傷がついたというのに、本当に信じられないセンスです。

上司というのは管理者です。

管理者の仕事は、部下が就業時間内の仕事だけで期日までに作業が終わるように仕事を割り振り、スケジュールを管理することです。

経験の浅い部下に仕事を割り振るときに、上司が勝手に、「この部下は1週間でこれだけの仕事を処理できるだろう」と決め、「これだけの仕事を1週間で終わらせなさい」と経験の浅い部下に一方的に仕事を与えて放置し、いざ期日になって仕事が終わってないと分かるとチクチクと、「お前は定時で帰宅して遊んでいたのを知ってるんだぞ!」などとイヤミを言う上司は管理者失格です。

経験が浅く時間の管理ができない部下ほどきちんと毎日の進捗をチェックし、遅れが出そうであれば何が問題かその部下と話し合うべきでしょう。

その結果、遅れが取り戻せるのであれば良いですし、そうでなければ早い段階で他の人に仕事を割り振るべきでしょう。

もしそれでも期日に間に合わなそうであればお客さんと掛け合って期日を伸ばしてもらう。

これが管理者の仕事です。

実際に横山氏のクライアントに、「お前が毎日定時で上がって楽しそうに飲んでいたのをフェイスブックを見て知ってるんだぞ」などと言った上司がいたのか知りませんが、私が経営者だったらそんな上司がいたらヒラに格下げします。

この、「部下の様子を近くで見ていた上司」は締め切り直前になって部下が期日の延期を求めてくるまで一体何をしていたのでしょうか?

毎日部下のフェイスブックをチェックしている暇があったら、きちんと部下の進捗管理をしておくべきでしょう。

ましてや経験の浅い部下であればなおさらです。

会社も当然、「経験が浅い」とか「まだ若い」ということを承知で採用しているのですから、そのことで本人が責任を取らなければならなくなるというのは、どう考えてもおかしな話です。

管理者はそういう部下をきちんとフォローしていくのも重要な仕事の一つでしょう。

裁量労働制は日本に合わない

ちなみに、私は裁量労働制は反対です。

現在の日本の会社や社会習慣を見る限り、この制度が公平に働くとはとても思えません

「どれだけの仕事をしたらいくら」というのを決めるのは基本的に会社になります。

この制度が採用されたら、どれだけの会社が公平に仕事に対して「値付け」するでしょうか?

日本のブラック企業の経営者たちが、1か月分の給料に対して常識的に考えて1か月で終わる分量の仕事を割り振るでしょうか?

そんな会社ばかりであれば今頃日本にはブラック企業などと呼ばれる会社は無かったことでしょう。

きっと、2か月分くらいの仕事を、「これが1か月分の給料に見合う仕事だ」と社員に押し付けるでしょう。

このような会社の決定に対して従業員が意見したり、会社がそれに対して聞く耳を持っていれば話は別ですが、ブラック企業がそんな優しいことをするはずがありません。

そうやって押し付けられた大量の仕事が終わらなければ残業をしてでも終わらせなければならず、その上残業代は出ないわけです。

こんなに理不尽なことはありません。

裁量労働制などやらずとも、優秀な社員には能力の低い社員よりも高い給料を与えれば良いだけの話です。

パフォーマンスが悪い社員に、「仕事が終わるまで帰るな」と無理矢理仕事をさせる必要はありません。

もし、短期間にたくさんの仕事がこなせる人材が欲しいのであれば、それなりの報酬で才能のある人材を集めるべきでしょう。

ワークライフバランスは誰のため?

「ツケ払い帰宅」がクセになっている人は、どのぐらいの時間でどのような種類の仕事が終わるのかイメージできません。考える習慣がないため、作業時間を見積もることができないため、過去やったこともないような新しい仕事をお願いすると、すぐに
「ムリです」
「難しいです」
と、即答します。

~(中略)~

「ツケ払い帰宅」を習慣化している人は「ワークライフバランス」を口にする権利がありません。お客様や会社の期待に応えるよう仕事をキッチリこなしてはじめて労働の対価が支払われるのが常識です。

どうも、ワークライフバランスがなぜ重要なのかを理解していないのは横山氏であるようです。

ワークライフバランスの説明を見てみましょう。

ワーク・ライフ・バランス – Wikipedia

近年は仕事のために他の私生活の多くを犠牲にしてしまう仕事中毒(ワーカホリック)状態となり、心身に疲労を溜め込みうつ病に代表される精神疾患を患ったり、過労死や自殺に至ったり、家庭を顧みる時間がなくなることで家庭崩壊に陥るなどの悲劇を生む事例が後を絶たなくなった。

仕事をしなければ収入が得られず、経済的に困窮する原因となる。逆に時間の大半を仕事に費やす長時間労働では心身の健康を害するほか、家庭や地域との和を乱す原因ともなる。これらを両立するには、仕事と(その他の)生活のバランスを取ることが必要である。

上記の横山氏の主張は要するに、「仕事ができない人間はワークライフバランスを要求する権利などない」ということですが、そうであるならば上のWikipediaの説明文を借りれば、「仕事ができる人だけが健康的な生活を送ることが許され、そうでない人間は私生活を犠牲にして働き、それが元でうつ病になったり過労死や自殺をしたり家庭崩壊しても仕方がない」ということになります。

「能力によって幸せを得る権利があるかどうかは異なる」などというのはワークライフバランスの考えには全くそぐいません。

能力が低かったり、経験が浅い人間であっても、健康的な生活を送り、家族と共にする時間を持ち、幸せに暮らす権利があるのは当然のことでしょう。

そういう人たちが給料が低かったとしてもそれは仕方のないことですし、いずれは経験も増えて能力も上がってくるでしょう。

病気になってしまっては仕事どころではなくなりますし、ましてや、死んでしまっては何のための人生か分かりません。

全ては本人とその家族が健康で幸せであればこそなのです。

そもそも、「ツケ」を払うべきなのは、きちんとスケジュール管理ができなかった会社と管理者であり、部下が無能な管理者のツケを支払う必要などありません。

何度も言いますが、部下たちが就業時間内だけできちんと目標が達成できるようにスケジュールを組み立て、管理していくことが管理者である上司の仕事です。

経験の浅い部下を非難し、夜遅くまで奴隷のように働くことを強制することではありません。

ワークライフバランスを勘違いしているのは横山氏であり、あのような記事を読んで「なるほど」と納得するような人が出てこないことを祈るばかりです。

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かわずん
アンチ・ブラック企業ブロガー